御経日(毎月1日) 住職法話 『臨終用心抄⑤ 』
御経日(令和6(2024)年6月1日) 住職法話
臨終用心抄⑤
『臨終用心抄』とは…総本山第二十六世日寛上人が臨終の大事とその心得えを御指南された書。
臨終の際に心が乱れる三つの理由 その③『妻子らの嘆きと財産等への執着』(①断末魔の苦しみ。②魔のはたらき。)
【本文】
一、 臨終の時心乱るるに三の子細有る事。
三には妻子従類の嘆きの声、財産等に執着するの故云々。大蔵一覧五(十五)、沙石四(二十六)に云く、一生五戒を持(たも)てる優婆塞、臨終に妻をあはれむ愛執有りけるが妻の鼻の中に虫に生まれたり、此も聖者に値(あ)って此れを知れり。致悔集下(ちかいしゅうげ)九に云く蘆山寺の明道上人は三大部の抄に執着有て聖教の上に小蛇となって居れりと。或る長者金の釜を持ちたりしが臨終にをしゝと思ひし故に大蛇と成って釜の辺りに蟠る云々。元亨釈書十九(十三)に引く。或る律師は天井に銭二十貫文を持て臨終に一念思出して蛇と成て彼の銭の中に住むと、檀方の夢に告ぐ彼の銭三宝へ供養すべしと。告げの如く彼の銭の中に小蛇あり、哀れに思い法華経を書(かい)て供養してあれば後に夢に得脱せり云々。去れば臨終には妻子或は心の留る財産等見すべからず。華を愛する者は小蝶と生れ、鳥を愛する者は畜生に生る等云々。本朝語園四(八)、八(二十八)、釈書十九(十四)。
〔語句解説〕
・大蔵一覧…宗の居士・陳実が編纂した『大蔵一覧集』のこと。
・五戒…在家のための戒で、不殺生戒、不偸盗戒、不邪淫戒、不飲酒戒のこと。
・優婆塞…在俗の男性信徒のこと。
・元亨釈書…鎌倉時代末期の虎関師練(臨済宗の僧)が著した日本仏教の歴史書で、諸宗の僧侶の評伝等を収めた書。
〔現代語訳〕
一、 臨終の際に心が乱れることについて、三つの理由があること。
三には、妻子や縁のある人々が悲しみ嘆く声や、財宝等に執着する故に心が乱れる。『大蔵一覧』『沙石集』によると、「今生において五戒(不殺生戒、不偸盗戒、不邪淫戒、不飲酒戒)」を持(たも)った男性信徒(優婆塞)が、臨終に際して遺す妻を哀れむ愛執があったために、妻の鼻の中に栖(す)む虫となって生まれた。のちに妻が聖者に値ってそのことを知った」という。
『空過致悔集』には次のようにある。「蘆山寺の明道上人は、天台三大部に執着があって、臨終ののち、その聖教の上に小さな蛇となって栖みついた。またある長者が金の釜を持っていたところ、臨終に際してこの釜が惜しいと思ったために、死してのちに大蛇となって釜の周りにとぐろを巻いた」という。
『元亨釈書』を引くと次のようにある。「ある律師は、天井に銭二十貫文の金子(きんす)を置いたところ、臨終の間際の一念にこれを思い出してしまい、のちに蛇に生まれてその銭の中に住んでいたという。律師がかつて親交のあった檀那の夢に出て告げるには、『その銭を三宝に供養してほしい』とのこと。そのお告げのように、天井の銭を見たところ小さな蛇がいた。哀れに思って法華経を書写して供養したところ、後に夢の中で得脱したと喜びを告げた」という。
したがって、臨終の時には妻子または心の執着になる財宝を見せてはならない。花を愛する者は臨終の際の執着によって小さな蝶に生まれ変わり、鳥を愛する者は畜生に生まれる等をいう。『本朝語園』には蝶と蛇の話し、『元亨釈書』には道成寺の案珍の話がある。
〔御指南を拝して〕
先々月(令和6年4月度御経日)より「臨終の際に心が乱れる三つの理由」と題して、①断末魔の苦しみ(令和6年4月度御経日)、②魔のはたらき(令和6年5月度御経日)、③妻子らの嘆きと財産等への執着(令和6年6月度御経日)と御指南を拝してきました。
①断末魔の苦しみ(令和6年4月度御経日)では、生前の悪い行い(業)が臨終のときに悪業として風の刀として現れて苦痛にあうが、一方、生前の行いが善ければ、「その苦痛も多くはない」と御指南され、②魔のはたらき(令和6年5月度御経日)では、魔神・鬼神等が成仏させまいと妻などの命に入り邪魔をすると御指南され、今月の③妻子らの嘆きと財産等への執着では、妻にせよ、財宝にせよ、臨終の間際にそれらへの執着があれば、ある時には蛇となり、ある時は蝶となり、それらの回りに住みいつまでも執着すると御指南されています。
日蓮大聖人様が「されば先づ臨終の事を習ふて後に他事を習ふべし」と御教示あるように、我々は、これら三つの理由を命ある今にしっかりと胸に留めておき、臨終を迎える時には心を落ち着かせ、成仏を得られるように願い、御題目を唱えてその時を迎えられるよう努めて仏道修行に励行しましょう。
以上
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