御経日(毎月1日) 住職法話 『臨終用心抄⑨』

御経日(令和6(2024)年10月1日) 住職法話

臨終用心抄⑨

『臨終用心抄』…総本山第二十六世日寛上人が臨終の大事とその心得えを御指南された書。


臨終の時まで障魔に用心せよ


【本文】

一、魔の所以(しょい)の用心如何。

 答ふ。平生覚悟有るべし。黄檗禅師(おうばくぜんじ)の伝心法要に云く、臨終の時若し諸仏来(きた)って種々の善相有るとも随喜(ずいき)を生ずべからず。若し諸悪現じて種々の相有るとも怖畏(ふい)の意(こころ)を生ず可(べ)からず。心を亡じて円なら令(し)む。是れ臨終の要也云々。随喜(ずいき)怖畏(ふい)の意(こころ)を亡じて但妙法を唱ふ可(べ)き也。蜷川(にながわ)臨終に、三尊来迎せるを弓を以て之れを射る則ち庭上(ていじょう)に落つ、果(はた)して古狸(ふるだぬき)也云々。之れを思へ。御書二八(三十二)に云く、止観(しかん)に三障四魔と申すは権教を行ずる人を障るにあらず、今日蓮が時具(つぶさ)に起これり乃至臨終の時迄御心得有るべき也文。


〔語句解説〕

伝心法要…中国の唐の時代の禅僧・黄檗希運(おうばくきうん)の説法を弟子・裴休(はいきゅう)が記録した書。

蜷川臨終に~古狸也…禅僧・一休宗純の逸話を集めた『一休咄(いっきゅうばなし)』。

三尊来迎…三尊とは阿弥陀如来を中心とする観音菩薩・勢至菩薩のこと。

三障四魔…修行の障害となる煩悩障・業障・報障の障りと、煩悩魔・隠魔・死魔・天子魔の四つの魔のこと。


〔現代語訳〕

1、魔の用(はたら)きに対する用心はどのようなものか。

 答える。平生から魔の用(はたら)きに対する覚悟をしておくべきである。黄檗禅師の『伝心法要』に「臨終の時に、もし諸仏が来てくださって多くのよい出来事(善相)があったとしても、随喜の心を生じてはならない。もし様々な悪い用(はたら)き・縁によって様々な悪い出来事(相)が起きたとしても、恐れる心を生じてはならない。心を空にして法界に遍満させるように観ずる。これが臨終の際の要である」という。

 随喜や怖じ恐れる心を空にして、ただ題目を唱えるべきである。『一休咄』には「蜷川新右衛門親当(にながわしんえもんちかまさ)」が臨終の際に、弥陀三尊が来迎したが、これを弓で射ったところ、来迎した弥陀等が庭に落ちて正体を現した。果たして古狸だった」という。この故事を参考にしてよく考えよ。

 『治病大小権実違目(ちびょうだいしょうごんじついもく)』に「『摩訶止観』に三障四魔とあるのは、権教の行者には障りをなさず、日蓮が法華経を弘通する時にまさに起こっているのである。また、天台・伝教等の時よりも日蓮に強く障りをなしている。一念三千の観法に理(り)と事(じ)があり、天台等は理、日蓮は事である。天台の理の一念三千よりも、日蓮の事の一念三千の方が勝れているから大難も強く出るのである。このことを臨終の時迄よくよく心得るべきである」(御書1238㌻取意)と仰せられている。


〔御指南を拝して〕

 今回の御指南『臨終の時まで障魔に用心せよ』のうち「魔の用きに対する用心」が仰せられていました。成仏ができる者・日蓮正宗信仰者への障り(じゃま)は、他の成仏できない者以上に障魔が起こり邪魔される用(はたら)きが強いと示されています。そのうえで日寛上人は、平生・常日頃から魔の用(はたら)はきに注意して仏道修行に励み、特に臨終を迎える時には、その邪魔が強く起こることを覚悟して迎えることが大事であると示されています。そのことを黄檗禅師の『伝心法要』を引用し、「臨終を迎えるまでに善いことも悪いことも様々に起きるがそれに右往左往と左右されることなく、心静かに御題目を唱える」ことの大事を仰せられて、また一休禅師の『一休咄』を引用し「悪しき邪魔は仏様に化けてでもそれが起こる」ことも示されています。そして大聖人様の『治病大小権実違目』より「大聖人様の教えは正法であり、唯一成仏できるものであるが故に、それ以外の教え以上に魔の所為・障魔が起きるため、臨終の時までにこのことを覚悟し、用心しておくことが大事である」と仰せられています。

 これらの御指南に現れる魔の所為・障魔は、様々な形で表れてきます。家族であったり、親族であったり、友人・知人であったりします。そしてその邪魔を見抜くことは非常に難しいものです。先ずは、臨終を迎える者がこの大事を常日頃から肝に銘じておくとともに、その家族や親族等がこの大事を知り、その邪魔を見抜けるように心掛けておいて、臨終に臨むことも大事となります。

 また大聖人様そして日寛上人は、平生からこのことを覚悟し心掛けて仏道修行に励むことが大事であると仰せられています。我々また家族等がいつ臨終を迎えるかは、分かりません。故に平生から覚悟して仏道修行に励んでいき、無事に臨終を迎えられるよう、努めていきましょう。

以上

日蓮正宗 法寿山円照寺(呉市)

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