御経日(毎月1日) 住職法話 『臨終用心抄⑪』

『臨終用心抄』…総本山第二十六世日寛上人が臨終の大事とその心得えを御指南された書。

妻子や財宝等に対して用心すること②


【本文】

一、妻子財宝等の用心如何。

 答ふ、(臨終用心抄⑩に掲載)

 又財宝の事は在家出家ともに存生の時に下記置く可(べ)き事也。されば在家は財宝に意懸けり。とやせん角やせんと思ふて心乱るる也。出家は袈裟・衣・聖教等、彼れに譲り此れに譲らんと思ふて心乱る。依て慥(たしか)に書き記す可(べ)き也。此等の妄念有る可からず。然れば唯後世の事のみ成らんと存する可(べ)き事肝心云々。愚案記二八。沙石九十二。

 経に云く妻子珍宝及び王位は命終に臨む時は随はず、唯戒(かい)及び施(せ)と不放逸(ふほういつ)とは今世後世の伴侶と為るなり云々。


〔語句解説〕

沙石…『沙石集(しゃせきしゅう)』のことで、鎌倉時代の仏教説話集。

愚案記…『見聞愚案記(けんぶんぐあんき)』のことで、日蓮宗の一如院法重の著。


〔現代語訳〕

1、妻子や財宝等の執着に対して、どのように用心するべきであるか。

 答える。(臨終用心抄⑩に掲載)

 また財宝(財産)のことは、在家も出家も生前のうちにどのようにするか等を書き置くべきである。書き置くことをしなかければ、在家は財産のことをいつも心に掛けて、ああしよう、こうしようと思って心が乱れるのである。

 出家は、自身の袈裟や衣、所持している聖教類などを、あの人に譲ろう、この人に譲ろうと思って心が乱れるのである。

 したがって、あらかじめしっかりと書き記しておくべきである。臨終の際にこうした妄念があってはいけない。

 しかれば、ただ後世の菩提だけを成就しようと考えることが肝心である。『見聞愚案記』に、このようにある。

 『沙石集』には「大集経虚空菩薩所問品に『妻子・珍宝および王位などは、臨終の時にも死後にも付き従うことはできない、ただ持戒および布施と、怠らずに善行を修する功徳こそ、今世と後世の伴侶となるのである』」とある。


〔御指南を拝して〕

 今回の御指南『妻子や財宝等に対して用心すること②』を拝しましたが、今回は前記・臨終用心抄⑩に続く答えですが、前記・臨終用心抄⑩では、妻子に執着しない為に妻子との因縁を、中国の唐の時代の白楽天の詩集、中国・宋の時代の居士陳実の大集一覧集、鎌倉時代の仏教説話集・沙石集、中国・唐の時代の沮虚京声(そきょけいせい)の訳した仏説五無反復経より、

例えば

(一)父子となった因縁は、譬えば、鳥が夜に林で寄り添い合って夜を過ごす程度のわずかな契りの縁

(二)母子となった因縁は、渡し船にたまたま一緒に乗り合わせ、岸に着いたらバラバラに別れる程度のわずかな契りの縁

(三)夫婦となった因縁は、市場でたまたま出会い、用事が済めば、それぞれに別れていく程度のわずかな契りの縁

と示され、今ある親子・夫婦・家族の関係(因縁)は、仮りの因縁であると心得て執着しない旨の御指南が示されていました。

 今回、臨終用心抄⑪では、財宝等への執着をしない旨の御指南が示されています。その方法として『見聞愚案記』より在家・出家それぞれの立場より、自身が死した後に財宝をどのようにすべきかを決めておくことが大事であると示されています。

 則ち、臨終を迎える以前に遺言書等を作成し書き置いていくことが臨終を迎えたときに財宝等で心を乱すことがない方法であると示されています。

 また日寛上人は、『沙石集』を引き、在家の者が生前いくら財宝を持っていても、出家者が立派な袈裟・衣等を持っていたとしても、死後においては、在家・出家の者は同様にそれを持っていくことはできない。

 死後持って行けるものは、生前の善行だけであると御教示されています。この善行とは何かと言えば、言うまでもなく正しく仏道修行に励むことを指しています。正しい行い故に御本尊様から功徳を得られます。

 正しい行い故に、それが原因となり、死後、結果となって功徳を持って行けるのです。正しい仏道修行とは何かと言えば、一つには自身の罪障消滅のための修行。一つには自分以外のための修行です。自身の修行は、朝の勤行・夕の勤行・時間を割いての唱題行・寺院への各諸行事への参列及びお手伝い等々。他の人への修行とは、育成行・折伏行、そして御経日・お盆等の追善供養。これらが善行となり善因となり、生前この善行が多ければ多いほど、死した後に善果として功徳が現れてくるのです。

 令和7年は年間方針が「活動充実の年」と決まり、年間実践テーマが

(一)勤行・唱題で果敢に折伏

(二)登山推進と寺院参詣で講中の活性化

(三)活発な座談会で人材育成

 と決まりました。またこの方針・テーマを受けて円照寺として、

① 円照寺寺院の恢復への励行

② 折伏請願目標成就への励行

③ 相続一致・俗々一致の異体同心への励行

との年間方針を決めました。

 我ら円照寺支部は、宗門の方針およびテーマ、円照寺年間方針に沿って自行化他の信心に励み、善因縁を積み、昨年以上の仏道修行に励んでいきましょう。

以上

日蓮正宗 法寿山円照寺(呉市)

広島県呉市にある、日蓮正宗円照寺です。悩みをお持ちの方、幸せを願う方、先祖を心から供養したい、など、様々なご相談に丁寧にお答えします。