御経日(毎月1日) 住職法話 『臨終用心抄⑫』

御経日(令和7(2025)年2月1日) 住職法話

臨終用心抄⑫

『臨終用心抄』…総本山第二十六世日寛上人が臨終の大事とその心得えを御指南された書。

妻子や財宝等に対して用心すること③


【本文】

一、妻子財宝等の用心如何。(【現代語訳】一、妻子や財宝等の執着に対して、どのように用心すべきであるか)

 答ふ、(臨終用心抄⑩⑪に続いて)

 人王(にんのう)六十五代の帝葉山(はやま)院は小野の宮殿の御女(おんな)、弘徽殿(こきでん)の女御(にょうご)に後(おく)れさせ玉ひて世の中は御意(こころ)細く思食(おぼしめ)しみたれたるころ、粟田(あわた)の関白未だ殿上人(てんじょうびと)にておはしける時、扇に此の文を書きて有るを御覧り有りて御意(おんこころ)を発(おこ)し、世の楽しみは夢幻(ゆめまぼろし)の程也、国の位も益(やく)無し、十善(じゅうぜん)満乗(まんじょう)の位を捨て永く一乗(いちじょう)菩提(ぼだい)の道に入らせ玉ひける。既に内離(だいり)を出でさせ玉ひける、夜は寛和(かんな)2年6月23日の有明の月くまなかりけるに流石御なごりも残りけるにや、村雲の月に掛かりければ、我が願ひ既に満つとて貞視(じょうし)(観)殿の高妻戸(たかつまど)よりをりさせ玉ひける。夫(それ)より彼の妻戸を打付けられける有難き御発心(ごほっしん)也。承(うけたまわる)も哀れに侍(はべ)り候云々。常に此の経文受せば何ぞ着心(きごころ)有らんや、着心(きごころ)無くんば心乱るる事有る可からず云々。


〔語句解説〕

小野の宮殿…ここでは、「小野宮殿(藤原実頼)」としているが、正しくは藤原為光(法住寺殿)。

弘薇伝の女御…藤原為光の娘・藤原忯子(よしこ)のこと。花山天皇の寵愛を受け入内(にゅうだい)したが、懐妊後に死去した。

 女御とは、皇后・中宮の次の位の女性で、天皇の近くに使えた女官。

粟田の関白…藤原道兼のこと。藤原兼家の三男で、義兄弟に藤原道長がいる。


〔現代語訳〕

『沙石集』には「人王六十五代の花山天皇は、藤原為光の娘で弘徽殿の女御(藤原忯子)が亡くなってより、この世の中を儚み、お心を乱されていた。この頃、粟田の関白・藤原道兼が殿上人で蔵人の弁の職にいた時、持っていた扇子に『妻子、珍宝および王位は臨終の時に随わざる』と書いてあるのをご覧になって発心されたのである。俗世の楽しみは夢幻程度のものであり、王位の位も無益であるとして、過去に十善戒を守り兵車万乗を領する帝王の位(天皇)を捨てて、一乗菩提の道(出家)に入られることになった。人目をはばかって天皇の御殿(内裏)をお出になり、藤壺の部屋から外に出ようとしたところ、夜は寛和2年6月23日、夜明けに残る月は陰りがなく明るかったので、出家の決意はしたものの、なお心残りがあった。出ていくさまが目立ち過ぎると迷われたところ、にわかに雲が集まって月を陰らせて少し暗くなったので、我が出家の願いは既に成就したと、貞視殿の高妻戸(両開きの扉)より降りられた。それより戻る事がないように、その扉は打ち付けられたという。尊い発心出家の姿であり、話しを聞くにもしみじみと感じ入るものである」とある。常にこの大集経を信受すれば、どうして執着する心があろうか。執着がなければ心乱れる事もないのである。ともある。


(概略)臨終用心抄⑩「妻子等に用心する」

 今世において親子・妻子・家族となったのは、例えば鳥が夜明けのために集まった程度の関係であり・渡り船に乗り合わせた程度の関係であり・市場で出会い、買い物が終われば別れるていどの関係である。今世の関係は仮りものであり、執着すべきでない。


(概略)臨終用心抄⑪「財宝等に用心する」

 出家者・俗人等と死を迎える前に財宝等を如何にすべきか遺言状を書いておけば、死を迎えるときに心乱すことがない。


〔御指南を拝して〕

 今回の御指南『妻子や財宝等に対して用心すること③』です。前回・前々回に続く最後の用心が示されています。

 『沙石集』を引かれ「花山天皇が藤原忯子を亡くし、心乱されていたところ、関白・藤原道兼の扇子に「妻子・珍宝および王位は臨終の時に随わざる」と書かれていたのを見て、現世の諸事は夢幻程度のことであると悟り、天皇の位を辞して出家し忯子を弔うため出家しようと決意した。しかし出家への決意を揺るがすことが起きたが、決意篤く出家された姿は尊いものである」と示されていました。今回の『用心』とは、「現世の諸事は夢幻程度のことである」が示され、妻子・珍宝に執着すべからずことが示されています。臨終用心抄⑩⑪⑫のそれぞれを通して、家族への執着・珍宝への執着を無くして臨終を迎えるよう志したいものです。


〔本年努めるべき仏道修行〕

総本山第六十八世御法主日如上人猊下御指南

「本年『活動充実の年』は、仏祖三宝尊への御報恩のもと、僧俗一致・異体同心の団結をもって活動の充実発展を図り、もって一天広布達成に向けて大きく前進すべきまことに大事な年であります。しこうして、そのためには本年度の年間実践テーマ、すなわち、

(一)勤行・唱題で果敢に折伏。

(二)登山推進と寺院参詣で講中の活性化。

(三)活発な座談会で人材育成。

と決まりました。またこの方針・テーマを受けて円照寺と

この三項目を全国の講中が足並みをそろえて、一支部も漏れることなく、確実に実行していくことが肝要であります。」

(法華講新年発登山代表信徒御目通りの砌『大白法』1月16日号)

以上

日蓮正宗 法寿山円照寺(呉市)

広島県呉市にある、日蓮正宗円照寺です。悩みをお持ちの方、幸せを願う方、先祖を心から供養したい、など、様々なご相談に丁寧にお答えします。